多焦点眼内レンズや焦点深度拡張型眼内レンズなど新しい眼内レンズが次々発売されています。
ではそれらのレンズは従来からある、単焦点眼内レンズより光学性能が優れているでしょうか?
答えはNoです。単焦点眼内レンズのほうが明らかに光学性能が優れています。以下理由を列挙します。
・単焦点眼内レンズは光学ロスがありません。対して多焦点眼内レンズは5−20%程度光学ロスが生じます。カメラの開放F値が大きいというイメージです。暗いレンズ、これは致命的だと考えます。
・夜間ハロー・グレアが生じます。夜間の運転に支障が出る可能性があります。
・コントラストが低下します。つまり鮮やかに見えないということです。
・偏心、縮瞳に弱い。これは眼内レンズが中心からずれると、一気に光学性能が落ちます。チン小帯が弱く眼内レンズが将来ずれる可能性がある症例、CCCが偏心した場合、破嚢した場合、レンズがtiltした場合などは非常に問題になります。また瞳孔径に近見視力が依存するため、瞳孔が小さい症例には不向きです。
・長期のデータが無い。多焦点眼内レンズは長期間に渡るデータが無いため、5年、10年後に同等の性能が続くか不明です。また眼内レンズの表面が細かく刻んであるため、後発白内障等で表面が変化した場合光学性能はどうなるのでしょうか。
・保証がない。個人輸入の多焦点眼内レンズは厚生労働省の保証がありません。
私はカメラが趣味ですので、開放F値が大きく暗い、コントラストの低い、グレアハローの出る、保証書のない並行輸入品、そんなカメラのレンズは相当粗悪なレンズだとわかります。
以前先進医療という名前で多焦点眼内レンズが使用されていましたが、"その有効性、効率性等が十分に示されていないことから、先進医療から削除する方向で検討することが適当"と令和2年1月9日の先進医療会議にて先進医療から削除された経緯があります。
先進医療という、まるで最先端の素晴らしいレンズであるかのようなコマーシャルをした各医療機関も問題だと思いますし、(先進医療という意味はまだ評価が定まっていない医療という意味です) 先進特約で実質無料で白内障手術ができると喧伝して荒稼ぎしている医療機関が結構ありました。
(先進特約って例えば従来の抗癌剤治療で加療できない人が藁をもすがる思いでとても高額な重粒子線治療を受けるために入る特約が本来の目的だと私は理解しています)
選定療養という制度に変わり、医療保険で多焦点眼内レンズがタダになるという不平等な事象はなくなりましたが、光学性能の優れない多焦点眼内レンズを高値で薦める医療は、私の倫理観に反します。
以上、結論。保険適応の単焦点眼内レンズが光学的に最も優れています。
これからも私は患者さんが最善と思われる医療を倫理観を持って行っていきます。
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